Sophist Almanac

世界について知りたいとき

Billy Joel, New York State of Mind (1975) ~ この歌聴いて New York に行こうと思った中学時代から、あの 9/11 テロを経験してあらためてこの曲を聴く現在

f:id:classlovesophia:20180715234515p:plain

 

 

えーっと、小さいころからコアにジャズばかり聞いていたかというと、そういうわけではなくて。

 

若いころ聞いた音楽というのは

一曲一曲、人生に特別な意味を持つものだと思います。

 

だから若い人たちには、日本の市場が次々と送りだしてくる流行ではなくて、いっぱい世界中の素晴らしい音や声と出会ってほしいなと思います。

 

そんな、自分の人生に特別な意味を持った楽曲、って jazz 以外にも色々あるけど。AOR 系やモータウン・ミュージック系など、Joni MitchellJanis Ian とか Rickie Lee Jones とか、そういうの一つ一つ、思い出して記録してみようかな、と思います。(時間ある時に、だけど。)

 

で、今日は Billy Joel を聴きたい気分。

 

f:id:classlovesophia:20180716004406p:plain f:id:classlovesophia:20180717012927p:plain

 

Just The Way You Are (1976) ~ 自分のあるがままの姿で

てゆうか、これ1976年の曲やったんや (*゚ロ゚)

ということは、リアルタイムで聴いてたんじゃないということやなあ。

 

自分のこどもの頃の実生活というと、なんかひどくディストピアのような家庭環境だったにもかかわらず、というか、ディストピア的環境だったからこそ、こういう都会的で精錬された音に強く惹かれたのかもしれないけど、夜、こういうの聴いて、いつか大人になったらニューヨークにいきたいなーっておもってた。

 

youtu.be  

このサックスの音と、ローズ (Rhodes Piano 電気ピアノ?) の音がね~、何ともいえない、当時の自分的ニューヨーク感だったわけ。

 

 

 

lyrics
Don't go changing to try and please me
You never let me down before
Don't imagine you're too familiar
And I don't see you anymore
 
I wouldn't leave you in times of trouble
We never could have come this far
I took the good times; I'll take the bad times
I'll take you just the way you are
 
Don't go trying some new fashion
Don't change the color of your hair
You always have my unspoken passion
Although I might not seem to care
 
I don't want clever conversation
I never want to work that hard
I just want someone that I can talk to
I want you just the way you are
 
I need to know that you will always be
The same old someone that I knew
What will it take till you believe in me
The way that I believe in you?
 
I said I love you and that's forever
And this I promise from the heart
I could not love you any better
I love you just the way you are

 

 

 

で、何年か経て、

本当に夢かなって初めて N.Y に行くでしょ。

 

実際の N.Y. はどうだったかというと、もっとあったかくて庶民的なイメージなんだけど (笑)。あ、それハーレム (Harlem) のイメージかな !?

 

それでも、何度行っても、何十年経っても、この曲が喚起させる、中学生の時の「遠い憧れの街ニューヨーク」のイメージは壊れないまま、まだ自分のなかに鮮烈に生きているのよね。不思議だなあ。

 

New York State of Mind (1976) ~ N.Y. への想い、9/11 から10日後のライヴ

次も、ニューヨークの気持ち。

アリシア・キースや、いろんな人にカヴァーされてる名曲です。

 

New York State of Mind (1976) の state には、double meaning があって、ニューヨーク州 (New York State) という意味と、自分の気持ちの状態 (state of mind) という意味がかけてある。うまいよねー。

 

で、ここで歌っているのは、なんと、この曲のリリースから、25年後のビリー・ジョエル

 

えっらい雰囲気変わるなあ~。繊細で心の苦しみと鬱にいつも悩まされていた若いころのビリーとは、なんかぜんぜん違う、そんな力強さを感じます。

 

 

Some folks like to get away,
Take a holiday from the neighborhood
Hop a flight to Miami Beach or to Hollywood
But I'm takin' a Greyhound on the Hudson River line
I'm in a New York state of mind


I've seen all the movie stars in their fancy cars and their limousines
Been high in the Rockys under the evergreens
I know what I'm needin', and I don't want to waste more time
I'm in a New York state of mind

 

It was so easy livin' day by day
Out of touch with the rhythym and blues
But now I need a little give and take
The New York Times, the Daily News
It comes down to reality, and it's fine with me cause I've let it slide
I don't care if it's Chinatown or on Riverside
I don't have any reasons
I left them all behind
I'm in a New York state of mind

 

Oh yeah
It was so easy living day by day
Out of touch with the rhythym and blues
But now I need a little give and take
The New York Times, the Daily News
Who, oh, oh whoa who
It comes down to reality, and it's fine with me cause I've let it slide
I don't care if it's Chinatown or on Riverside
I don't have any reasons
I left them all behind
I'm in a New York state of mind

 

I'm just taking a Greyhound on the Hudson River line
Cause I'm in a, I'm in a New York state of mind

 

でもね、

もっとすごいのは、これ、実は、2001年の9/11の10日後のライヴなの。

 

見てみて。ビリーが弾いているグランドピアノの上に置かれているのは、あのワールドトレードセンターで人々を助けようとして亡くなった消防士のヘルメットです。

 

あのかつては世界一の高さを誇ったツインタワーがこんな姿に。誰もが信じることができなかった。ここだけで2763人の命が奪われた。

 

f:id:classlovesophia:20180717041830p:plain

 

やはり欧米諸国の一つのすごいことは、こういう苦しみの時には、すぐ、その日のうちに契約や企業の枠を超えて一致団結して charity (Latin: love) というアクションに人々が動きだす。

 

この時も、すぐにアメリカの四大ネットワーク Fox, ABC, NBC, CBS が中心となって35以上の局が協力し、なんと9/11 の10日後 ( ! ) あまたの歌手や俳優や有名人たちが一堂にそろって telethon (チャリティー番組) をしたわけです。

 

そのライブが、DVD になっています。これは9/11 の追悼と平和のメッセージだけでなく、音楽的にも素晴らしいものばかり。

 

この Music DVD はお薦めです。みんなもしってるいろんな人が登場します。

 

私もあの時、どうしても用事あって、テロから五日後、テロ後初めて飛びたつ飛行機でミシガンからニューヨークにいった。しかも、同じ American Airline の。その時のことは、すごくいろいろあって、また別の時に書きたいけど、あのニューヨークを深く覆った苦しみの空気が重すぎて、上を見るのが怖すぎて、ロウワー・マンハッタンでは下ばかり見て歩いていた。

 

f:id:classlovesophia:20180717044143p:plain

 

地面にも沢山の紙や灰のようなものが通りに散らばっていて、キャンドルがそこら中にともされ、Missing (行方不明) の人々のチラシや祈りや、パトカーのサイレンのあいだを歩きながら、その苦しさで押しつぶされるようだった、あの時の空気を、今も覚えています。

 

翌朝の新聞各紙が This Is War だの、This Is Pearl Harbor だの、といった言葉を一斉にのせ、人々の怒りが急速に牙をむいて知らぬうちに戦争へと進んでいくのを、ひとりの「異邦人」として、すさまじい恐怖を皮膚に感じながら、みていました。

 

あまりに現実がひどかったので、そんなときには、言語化するどころか、涙もでない。ずーっと心が凍ったようになってしまう。それはすごくしんどいことです。

 

だから、この企画は、亡くなった犠牲者や、警察官や消防士への寄付だけでなく、多くの人が、こうしたアーティストたちの平和と祈りのメッセージに心を救われたと思います。わたしもその中の一人でした。

 

あの反戦の祈りを歌った John Lennon の Imagine を Neil Young が歌い、そして、苦しむ人には自分が激流のうえの橋となろうと歌ったあの A Bridge Over Troubled Water を Paul Simon が歌いました。

 

そして、Billy Joel そのひとが、あの New York State of Mind を歌うわけです。これ、ほんと、歌うの無理、っていう歌詞ですよね。N.Y. で生まれて、N.Y. と共に生きて、N.Y. をずっと愛してきた Billy が、ニューヨークを襲ったテロの10日後に、こんな美しい街の歌を歌うなんて、あの変わり果てた街の姿をみていたら、ぜったい無理。と思うのですが、

 

ほんとうにプロってすごい。

 

Billy ほど N.Y. を愛してる人はいないくらいなのに、自分が泣いて歌えなかったら、人につたえたい歌は歌えないから。歌に集中して揺るぎないビリーの声に、もう、ほんとに心が震えました。

 

Scenes From An Italian Restaurant (1977) ~ N.Y. とユダヤ移民の物語

ヤバい、いま、ぐっときた !

この動画見て、Billy の胸のバッジ気が付いた !?

 

 

これ、もう New York City の epic (叙事詩) といってもいい名曲だけど。Billy 自身もお気に入りの一曲らしいです。

 

 

ニューヨークのイタリアンレストランを舞台にした、一組の男女の物語り。

 

そして、この曲を歌うビリーの胸には

なんと六芒星 (Star of David) のシンボルが !

 

そう、ユダヤ教のシンボル、ダビデの星ナチスドイツのユダヤ人迫害と虐殺の中で、ユダヤ人が胸に貼ることを強要されたのも、また黄色く塗られたダビデの星でした。

 

実は、ビリーの家族は、ナチス・ドイツから逃れるために、ドイツからスイスを経由してキューバへ、そしてそこからアメリカに亡命したアシュケナジムユダヤ人を父に持ち、また、イギリス系ユダヤ人の宝石商の娘を母として、ニューヨークのブロンクスに生まれました。

 

アシュケナジム系とかのユダヤの歴史についてはまた機会あるときに。

f:id:classlovesophia:20180717050534p:plain

 

けれど、ジョエル家はあまりユダヤ教に関心がなく、ユダヤ系であっても、積極的にユダヤ教を信じていない non-observant とよばれる、多くのニューヨークのユダヤ系の人々の一人でした。少なくとも、そう一般的には思われていました。

 

ところが、2008年の、このニューヨークスタジアムでのライブで、ビリーは、ダビデの星を胸につけて、『イタリアンレストランから』を歌っています。

 

どんな想いを込め、

どんな祈りを込めて、

ビリーはその星を自らの胸につけて歌ったのでしょう。

 

N.Y. は、ヨーロッパの圧政から逃れてきたユダヤ系移民にとって、ひとつの haven (停泊所, 安息所, 避難所) のシンボルでもありました。

 

1903年、あの自由の女神に、このソネットの一部が刻まれています。その詩人の名前は、N.Y. 生まれの Emma Lazarus エマ・ラザロス。彼女の『新しい巨人』(The New Colossus) という詩の一部です。

 

f:id:classlovesophia:20180717115302p:plain

Emma Lazarus (1849-87)

 

彼女もまた、この自由の女神の照らす光をもとめてこの地にやってきたセファーディック系ユダヤ系移民の娘でした。

 

f:id:classlovesophia:20180717113727p:plain

 

Give me your tired,
your poor,
Your huddled masses yearning to breathe free,
The wretched refuse of your teeming shore.
Send these,
the homeless,
tempest-tossed to me,
I lift my lamp beside the golden door!”

Emma Lazarus, 1883

 

疲れ果て、貧しさにあえぎ、自由の息吹を求める群衆を、私に与えたまえ。
人生の高波に揉まれ、拒まれ続ける哀れな人々を。
戻る祖国なく、動乱に弄ばれた人々を、私のもとに送りたまえ。
私は希望の灯を掲げて照らそう、自由の国はここなのだと。

エマ・ラザラス(意訳 青山沙羅)

 

ビリーにとって、9.11 のテロは何を意味したのか。

ホロコーストを逃れ、自由の地をもとめて N.Y. に渡ってきた自分たちの先祖。

 

でも、そのアメリカも、移民にとっての haven なんかじゃなかった。憎悪のターゲットにされたツインタワーは砕け落ち、そしてそのテロが生み出した憎悪が、人々を二つの戦争に駆り立て、そして増幅され世界に広がる憎悪がまた、アメリカに・・・

 

・・・そして、9/11 のテロから15年後、移民を壁の向こうに追いやれという政権が誕生するわけです。

 

俳優で、日系二世のジョージ・タケイさんは、ドナルド・トランプの現在の移民政策は、第二次世界大戦日系人強制収容所よりも悪なるものだ、少なくとも日系移民の子どもたちは、親から引き離されたりはしなかった、と政権を厳しく批判しています。

 

 

ニューヨークの吟遊詩人、

時代と共にいきるビリー・ジョエル

 

その軌跡をこれからも追っていきたいと思います。