ビルマには、仏教徒が89%、キリスト教徒が4%、イスラム教徒が4%、そして、その他の宗教信者もいます。私は仏教徒ですが、子どもの頃からの友人には、キリスト教徒もイスラム教徒もヒンズー教徒もユダヤ教徒もいます。このようなビルマについて、とても残念なニュースを、2012年6月から耳にするようになりました。仏教徒とイスラム教徒がいがみ合っているというニュースです。でも、私はこのニュースを信じていません。これは、現ビルマの独裁者が仕組んだことだと思います。ビルマでは、これまで、政府が大きな間違いを犯した後と、悪事を行う前とに、いつでも、独裁者によって宗教に関連した問題が起こされてきました。
例えば、1988年8月の大規模な民主化運動の発端となる、政府による学生の殺害事件がラングーンで起きたあと、他の町で仏教徒とイスラム教徒の抗争がありました。これは、当時の独裁者ネウィン将軍が、国民の目を学生と機動隊の衝突からそらすために起こした問題です。
アラカン州で起きた暴動の様子
2012年6月アラカン州でのアラカン民族とロヒンギャとの衝突は、本来、穏便に対処されるべき問題でしたが、政府が故意に事を荒立てました。ちょうど、テインセイン大統領が中国とのダム開発を休止すると公言したあとで、ビルマ国内の民主化活動家たちがアラカン州から中国への天然ガスパイプラインの開発中止を求めるキャンペーンを始めていました。政府にとって目障りなこのキャンペーンから国民の目をそらすために、アラカン州内に起きていた問題を大きくしたのです。
また、2013年3月20日には、ビルマ中部のメイッティーラで、仏教徒とイスラム教徒との間に問題が生じました。これも、もともとはその日のうちに収まる問題でしたが、政府が仕向けて、翌日にはメイッティーラの町が混乱しました。イスラム教のモスクや信者の家、仏教徒の家が、焼かれたり、破壊されたりしました。この町で100人をこえる人々が亡くなりました。
こうした暴力行為を行ったのは、メイッティーラの人々ではなくて、他の場所からトラックの荷台に乗って武器を携えてやって来た人々でした。この人たちが来る前には、町中の電気が止められ、電話もつながらなくなっていました。皆、手首に同じ色のマークをつけた人たちで、なかには僧衣を着た、偽の僧侶もたくさんいました。メイッティーラの暴動の後、同じような集団が、他の14の町でもモスクを焼くなどの惨事を引き起こして、仏教徒とイスラム教徒の溝が深まるようにしました。なぜでしょうか。2013年3月14日に、前軍政の独裁者タンシュエさんの孫、ポーラピェさんが事件をおこしていたからです。
独裁者タンシュエさんは、新興都市ネピドーを建設して遷都した後、引退宣言もなく前線から退いて、近況がまったく知れませんでした。ところが、3月の孫の事件で久しぶりにマスコミに騒がれて、国民の興味の的になりました。
タンシュエ前上級大将(右の矢印)の外国訪問に同行する孫ポーラピェさん(左の矢印)
2013年3月14日、ポーラピェさんは運転中、赤信号の交差点で止まったときに、交通整理の巡査に信号を青に変えるよう命じました。巡査は信号を青に変えましたが、ポーラピェさんが通過しようとした時には、もう黄色になっていました。ポーラピェさんは信号でUターンして巡査を殴り、帰宅時にひとりの少佐に命じてこの巡査を自宅まで連行させ、拷問しました。巡査は解放された後、雑誌記者にこの事件を話してニュースにしました。マスコミは政府に、タンシュエ前上級大将が未だに実権を握っているのかなど、質問をしました。そこで、この面倒から国民の目をそらすために、メイッティーラの事件に白羽の矢が立てられたのです。
今このニュースは、みなさんもご存知のとおり、宗教抗争として大きく扱われています。ポーラピェさんとタンシュエさんについてのニュースは、潮が引くように聞かれなくなりました。
このように独裁者が民族問題や宗教問題をつくりだすことを、ビルマで民主化活動をしてきた人たちは、よく解っています。こうして引き起こされた大惨事は、もともと民族問題でも宗教問題でもありません。ビルマでは、宗教が異なっていても、民族が異なっていても、人々は友人関係にある隣人です。
ただ、ビルマでは政治が悪いので、国民は教育の機会を絶たれてきました。とくに辺境地では、初等教育でさえ満足に受けられません。独裁者や軍政幹部は、こうした教育されていない民衆を煽る方法をよく心得ています。国民が、心を落ち着けて判断することができなくなるような、騒動や暴力で、国を混乱させる方法に長けています。
ですから、今、ビルマに本当に必要なのは教育です。
2013年4月10日 ココラット
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