Sophist Almanac

世界について知りたいとき

1749年7月3日 稲生もののけ物語 ~ 女の切れた生首がなめまわす、そして青瓢箪が降臨

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「芸州武太夫物語絵巻」(立花家史料館蔵)

 

稲生もののけ物語、『稲生物怪録』(いのうぶっかいろく)は、江戸中期、寛延2年(1749年)の備後三次(現在の広島県三次市)のひとりの少年が経験した一か月にわたる物の怪との出会いをまとめた記録。稲生武太夫(幼名・平太郎)が体験したという、妖怪にまつわる怪異をとりまとめた記録。毎日毎日、飽きることなくいろんな「もののけ」がやってきます。

 

三日目の今日は、何がやってくるのだろうか。

 

1749年7月3日 女の切れた生首が、そして青瓢箪が、

畳をなおさなければいけないのだが、畳を直していると、畳の隙間からでてきた長い髪の毛にひっぱられ、生々しく切られた女の生首があらわれる。まったくエロくもないエロな生首がべろべろとなめてくる。ついには下半身までなめてくるので、ある意味、絶体絶命である。どうする、平太郎 ! それが終わると、今度は青い瓢箪がつぎつぎと降臨してくる。いったいなんなんだ !!!

 

ながーくのびる髪の毛にひっぱられるように女の生切りされた首がでてきて、逆さになって髪を足に、黒目をみひらいて歩いてくる。恐怖映画のリングのようにビジュアルなのだけど、冷静な平太郎の目で記録された生首は、なぜかとてもコミカルに見えてしま。

 

『三次実録物語』試訳

さて、三日の夜、その前、畳表をかえたのだが、納戸のすみの下に柱があるので、畳のすみをそこにあわせ、すみを切った畳を居間のすみに持ってきたのだが、畳のすみがあき、そこから髪の毛がでてきたのだが、ただ前に長くなって、後ろには四尺(1.2m)ぐらいになっていたのが、

 

すぐに女の切れた首が、その髪の毛についててできて、首の切れた口を上に向け、髪は三つに分かれ、その髪で歩くその音が、遠くで畳を打つような、だんだんと私がいるところにやってきて、よくみてみれば、下あごが、四、五寸ばかり長くそりかえって、目が三角で、黒まなこをこしらえて、その雰囲気たるや、なんとも言葉にしがたく、私の前にやってくるのだが、あまりに不気味にみえ、

 

私の体にあたらないうち、こちらからつかまえてやろう、と思ってとびかかり捕まえたのだが、そのまま消え、またあとにかわってでてきて、前のとおりにやってくるのを放置しておき、みてみると、髪をひろげ、私のひざのうえにあたまのぎりぎりをもたせて、首の切れたところを上にむけて、その重たさは、石臼を置いたかのようになった。

 

私は手をこまねいて、歯をくいしばり耐えたのだが、そこから飛んで、こんどは肩先にとりつき、髪で私をつつんで、髪の毛は一筋づつ分かれて動き、それっきりかと思ったところ、横に舌をだして、私の目や顔をなめる。だんだん濡れてきて、舌でもって顔をのこらずなめて、それから首筋上のあたりをなめる。それから先は舌はとどかないだろうとおもうと、だんだんと舌が長くなり、帯きわや腹にまわり、へその下、うしろのほうは、腰から尻から残らずなめまわし、それから散らばっていった。

 

それから蚊帳をつり、横になっていれば、天井から青瓢箪が下がり、長くなり、また、しめってきて、そのうちにまた寝入ってしまった。

 

 

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三次ことばのメモ

いごく = うごく

ねぶる = なめる

じるくなる = しめってくる

たう = たっする