Sophist Almanac

世界について知りたいとき

Gospel Music: カーク・フランクリンが賞と番組をボイコット ~ 音楽は商品利用しても、黒人の生命の現実に向きあうことをしない世界に

f:id:classlovesophia:20201212133731p:plain

 

カーク・フランクリンが賞と番組をボイコット、なぜ !? 

「彼らは私のスピーチを「編集」しただけでなく、アフリカ系アメリカ人の体験をも「編集」したのです」

アーバン・コンテンポラリー・ゴスペルを率いるアーティスト、カーク・フランクリン。

 

 

単に天才というだけじゃないんだよな。本当のアーティストは。

 

警察による黒人への暴力の現実に言及した彼のスピーチを二度も削除した賞とテレビ局をボイコット。そして彼のボイコットに、レクレーやマービン・サップといったアーティストも賛同している。

 

2019年10月のこの記事なんだが・・・、日本でも、もっと紹介されてもいんじゃないだろうか。

  

まさにアフリカ系アメリカの文化だけは都合よく商品利用しても、黒人の生活と生命には向きあおうとはしない、都合の悪いニュースはカットする、そんな音楽業界や報道は、アメリカだけに限らない。日本の風土にしっかりと根を張っているからです。

 

カークフランクリンの福音派テレビネットワークボイコット、黒人アーティスト達もバックアップ

Black Musicians Are Standing Behind Kirk Franklin's Boycott Of Evangelical TV Network

HuffPost 10/29/2019

 

クリスチャン音楽家のカーク・フランクリンは、黒人アメリカ人に対する警察の暴力についての彼のコメントが、アワード・ショーの放送から二度も削除された後、ゴスペル音楽協会のダブ賞と保守的なキリスト教トリニティ放送ネットワークのボイコットを発表した。

 

グラミー賞を受賞した著名なゴスペルミュージシャンであるフランクリンは、GMAとTBNが、2016年と2019年の受諾演説で行った警察の暴力についてのコメントを編集して削除したとして非難した。フランクリンは、「多様性を保護および擁護するための具体的な計画が実施されるまで」、ダブアワード、GMA、TBN に関連するイベントにはもう二度と参加しないと述べた。

 

“It is important for those in charge to be informed. Not only did they edit my speech, they edited the African-American experience,” Franklin said in an Instagram video published Monday. 

 

「担当者に情報を提供することは大切です。彼らは私のスピーチを「編集」しただけでなく、アフリカ系アメリカ人の体験をも「編集」したのです」とフランクリンは月曜日に公開されたインスタグラムのビデオで述べた。 

 

 
アーティストは、ボイコットは「個人的な選択」であり、キリスト教のゴスペルコミュニティの他の人々に参加を求めているのではないと述べました。それでも、何人かのブラッククリスチャンミュージシャンはオンラインでの動きへの支持を表明しました。

 

グラミー賞とダブ賞を受賞したラッパーのレクレー は、白人のキリスト者が黒人の生命と生活の現実に向きあってきていないことを批判してきました。彼はフランクリンのインスタグラムに次のように書いています。あなたがいたから私がやってこれた。私もぬけますよ。✊🏾」

 

ゴスペルアーティストでダブ賞を受賞したジョナサン・マクレイノルズは、次のように書いています。「教会のルールですよ。誰もシャウトすることを止める手立てはありません。#現在。」

 

ミュージシャンのトラビス・マロイPJモートンジョナサン・ネルソンもフランクリンへの支持を表明しました。

 

ハフポストは、フランクリンのダブ賞のボイコット、GMA、TBNに参加しているかどうかを明確にするために、これらのアーティストに連絡を取りました。

 

ゴスペルシンガーでダブ賞を受賞したマーヴィン・サップのスポークスパーソンは、彼がボイコットに参加していることをハフポストに確認しました。

 

キリスト教音楽業界のグラミー賞と見なされているダブ賞は、世界最大のキリスト教テレビネットワークといわれるTBNで放送されています。

 

In his Instagram video, Franklin said that his concerns about TBN and the GMA stem back to 2016, when he received a Dove Award for Gospel Artist of the Year. He said he felt it was his responsibility as a Christian of color to address the “civil unrest” that was “plaguing” the country at that time, prompted by the killings of Philando Castile, Walter Scott by white police officers, and the killings of five Dallas police officers by a Black gunman. During his acceptance speech, Franklin said he asked the audience to join him in prayers for the families affected by those tragedies.

 

フランクリンは Instagram のビデオで、TBNとGMAに関する懸念は、ゴスペルアーティストオブザイヤーのダブ賞を受賞した2016年にさかのぼると述べています。彼は、フィランド・カスティールウォルター・スコットの白人警察官による殺害、および黒人の銃撃者による5人のダラス警察官の事件によって誘発され、国を「悩ませていた」「市民の不安」に対処することは、黒人キリスト教徒としての彼の責任であると感じたと述べた。フランクリンは、受賞スピーチの中で、これらの悲劇の影響を受けた家族のために、聴衆に一緒に祈りに参加するように求めたと述べました。

  

しかし、アワードショーがTBNで放映されたとき、フランクリンのスピーチのその部分は編集されました。

 

“I made my disappointment and frustration known to the Dove Awards committee and to the Trinity Broadcasting Network,” Franklin said. “I never heard from TBN, and the Dove Awards committee promised to rectify the mistake so that it wouldn’t happen again.”

 

「私は自分の失望と欲求不満をダブ賞委員会とトリニティブロードキャスティングネットワークに知らせました」とフランクリンは言いました。「TBNからの連絡は一度もありませんでした。ダブ賞委員会は、間違いが二度と起こらないように修正することを約束しました。」

 

But “history repeated itself” in 2019, Franklin said. 

しかし、2019年には「歴史が繰り返された」とフランクリン氏は語った。

 

At this year’s Dove Awards, which took place in Nashville on Oct. 15, Franklin referred to the killing of Atatiana Jefferson, a Black woman who was shot in her own home by a Texas police officer earlier this month. Jefferson’s 8-year-old nephew witnessed the shooting. 

 

フランクリンは、10月15日にナッシュビルで開催された今年のダブ賞で、今月初めにテキサス州の警察官によって自宅で撃たれた黒人女性、アタチアナ・ジェファーソンの殺害について言及しました。ジェファーソンの8歳の甥はその銃撃を目撃したのです。

 

 

フランクリンの受諾演説のその部分は、10月20日TBNでアワードショーが放映されたときに再び編集されました。

 

Jackie Patillo, the GMA’s president, issued a statement apologizing for what she called a “completely unintentional” misstep. She blamed the edit on the fact that the GMA had to cut the award show down to two hours.

GMAの会長であるジャッキー・パティージョは、彼女が「完全にわざとではない」失敗と呼んだ今回の事を謝罪する声明を発表しました。彼女は、削除をGMAがアワードショーを2時間に短縮しなければならなかったという理由のせいにしました。

 

「私たちは自分たちの過ちの責任を受け入れます」とパティージョは書いています。この編集は、「私たちはこの編集で黒人の人たちに影響を与える重要な社会問題に関心がないと一般的に認識されてしまう結果となりました。アーティストを無視したり沈黙させたりすることは私たちの意図ではありません。私たちはこの認識に深く悲しみ、これを変えることを約束します。」

 

Patilloは、GMAがフランクリンと会って「解決策について話し合う」と述べました。これは後で発表されます。TBNはまた、フランクリンのスピーチの編集されていないバージョンをビデオオンデマンドプラットフォームを通じて利用できるようにしました。

 

TBN、ハフポストのコメント要求に応答していません

 

ドナルド・トランプ大統領の最も近い福音派キリスト教団体のいくつかは、ポーラ・ホワイト、ロバート・ジェフレス、イェンテゼン・フランクリンなど、ショーを主催したり、TBNに出演したりしています。その保守派のリスチャンテレビネットワークには、TDジェイクスやクレフロドラーなどの著名な黒人牧師によるプログラムもあります。

 

Studies have shown that there is a wide gap between white Christians and Christians of color on the issue of police violence against Black Americans. About 71% of white evangelical Protestants believe recent killings of Black men by police are isolated incidents, according to a study published by the Public Religion Research Institute in 2018. About 63% of white Catholics and 59% of white mainline Protestants agree. On the other hand, 84% of Black Protestants say that recent killings of African-American men by police are part of a broader pattern of how police treat African Americans.

 

研究によると、黒人アメリカ人に対する警察の暴力の問題に関して、白人のキリスト教徒と黒人キリスト教徒の間には大きなギャップがあることが示されています。2018年に公的宗教研究所が発表した調査によると、白人の福音派プロテスタントの約71%が、警察による最近の黒人男性の殺害は個別の事件であると信じています。白人カトリック教徒の約63%と白人主流派プロテスタントの59%も同様です。一方、黒人プロテスタントの84%は、最近のアフリカ系アメリカ人男性の警察による殺害は、警察がアフリカ系アメリカ人をどのように扱っているかという、より広範なパターンの一部であると述べています。

 

フランクリンはInstagramのビデオで、彼の目標は「和解」と「説明責任」であると述べました。

 

“This is my personal choice to take a stand and hold responsible those in positions of power to acknowledge the issues in our separate communities that have existed from colonialism to Jim Crow,” he said. 

 

「これは、私の個人的な選択なのです。立ち上がり、植民地主義からジム・クロウまで存在してきた私たちの個々の共同体における様々な問題を認識する立場にある者の責任を負うということです」と彼は言いました。

 

In the end, we will not remember the words of our enemies but the silence of our friends,” he added.  

 

「結局、私たちは敵の言葉ではなく、友人の沈黙を忘れないものです」と彼は付け加えました。

 

「沈黙する友人」とは !? 

この最後のフランクリンの言葉、「結局、私たちは敵の言葉ではなく、友人の沈黙を覚えている」は、キング牧師の言葉。

 

f:id:classlovesophia:20201212134335p:plain

 

この言葉は、ド直球で

アメリカの白人系キリスト者に向けられたものです。

 

キリスト教福音派は、黒人の生命がいま問題となっている (Black Lives Matter)、という倫理的呼びかけに呼応するどころか、トランプの圧倒的な支持母体であり続けました。

 

2016年大統領選挙では 81% の白人福音派キリスト教徒がトランプを支持。

f:id:classlovesophia:20201212143819p:plain

Will the GOP evangelical firewall hold for Trump?

 

2020年になっても、その数はほとんど5%ほどしか減少しなかった。

Q: White born-again or evangelical Christian?

f:id:classlovesophia:20201212111429p:plain

Presidential Election 2020: Exit Poll ~ 出口調査を「読む」のはおもしろい ! 今回の選挙も見ごたえあります。 - Sophist Almanac

 

そして共和党支持者の中には、今、現実に問題となっている人種問題を「そんなに重要ではない」と考えている人も多い。

 

f:id:classlovesophia:20201212160817p:plain

Presidential Election 2020: Exit Poll ~ 出口調査を「読む」のはおもしろい ! 今回の選挙も見ごたえあります。 - Sophist Almanac

 

友人の沈黙という言葉を、もっとわかりやすく言えば、

Silence is Violence ということだろう。

 

1938年の11月のある夜、ドイツ各地でユダヤ人居住区が次々と襲撃され、放火される事件がおきた。破壊されたガラスが月に照らされて光っていたことから「水晶の夜」と呼ばれる事件だ。襲撃したのはナチ党の影響下にあった突撃隊のメンバーたちだったのだけど、ルワンダのように触発された一般の人々が次々と襲撃に加わり、という具合にはいかなかった。

その代わり「圧倒的多数の人間はそれから目をそむけ、それに耳をふさぎ、そして何よりもそれについて沈黙した」と、社会学者のジグムント・バウマンは表現している。

その後、ユダヤ人が強制収容所に次々と連れていかれるようになってからも、大衆はそれに加担する代わりに、沈黙した。バウマンの言葉を借りれば、耳をふさぎ、沈黙し続けたのだ。抗議するでもなく、阻止するわけでもない消極的な支援があったからこそ、大量殺人のプロセスを粛々と進めることができたと言ってもいい。

http://www.webchikuma.jp/articles/-/1071

 

sophist.hatenablog.com

 

Silence is Violenc by Osaka Naomi

数日前に日本でも公開された大阪なおみ選手の日本語版 youtube 動画は、高評価より低評価の方が多く、いつものようにそのコメント欄では、日本で人種差別など存在しないということを声高に主張したい人たちが、いかに粘着的に人種差別的な主張を繰り返しているのか、ということが見て取れる。人種問題に無関心な日本の土壌では、マイノリティーの人々がアメリカよりもさらに厳しい批判の一方通行にさらされているかを物語る一例となっています。

 

その後 

GMA はすぐさま意図的な削除ではないと謝罪し対応しているが、福音派のテレビ局 TBN は二度の削除において何らの声明も出していない。

 

f:id:classlovesophia:20201214125237p:plain

https://www.youtube.com/user/TrinityBroadcastNet

 

今回の出口調査を見れば、白人福音派の多数派にとっての隣人は、たんなる親しい間柄のご近所であり、イエスの語る、今、私たちのそばで苦しんでいる誰かほかの人たちのこと、ではないことは明白だった。

 

sophist.hatenablog.com

 

カーク・フランクリンは生まれてすぐ母親に捨てられ、叔母の手で育った。なんどか道を踏みはずしそうになりながらも、彼の音楽的才能に気がついた叔母は、苦労してお金を工面し、ピアノのレッスンに行かせた。15歳の頃、一緒に出奔した友達が射殺される事件がおこり、また彼は教会にもどる。若くして自分のクワイアを持つが、たぐいまれな才能を持っているからと言って、人生は順調なわけではなく、時には思わぬトラブルや裏切りに巻き込まれたりもする。

 

私が学生時代にはすでに彼はアーバン・コンテンポラリー・ゴスペルの代名詞のような存在だった。そのころはジャズばかり聞いていたし、ひねくれものの私は、そんな音楽が派手すぎてとっつきにくいと思っていた。そうして、やっと最近になって彼のすごさというものと、その背後にある信念の強さといったものを認識できるようになってきたと思う。ともかく彼は、思索を深め、自分のクオリティーを絶対に高く持つ人であり、それについて妥協することがない。それがどれだけすごいことなのか、最近やっとわかってきたような気がします。

 

 パロディーとパロディーの元ネタを比べてみると、さらにおもしろい !

sophist.hatenablog.com

❒ ❒ ❒ ❒ ❒ ❒ ❒ ❒ ❒ ❒