Sophist Almanac

世界について知りたいとき

アイヌ (2) - 歴史修正主義との闘い - 「色丹島へのアイヌの強制移住は強制ではなかった」というデマ

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"Ainu: Spirit of a Northern People " ISBN: 0967342902
 

私が北アメリカの先住民オジブエの人たちにお世話になっていた時、みんながアイヌのことを知っていた。私が日本から来たという事を知ると、みんなやってきて、いろいろと話しかけてくれるのだけど、なかでもアイヌの話が一番多かった。アイヌの事知ってるよ、アイヌと俺たちはつながってるよ、みたいな。

 

で、私の持っているアイヌの知識はさほど多くはなかったけどね。

 

小学校の時に読んだアイヌの伝説コロボックルをモデルにした童話からはじまって、

 

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アイヌで初の国会議員になった萱野茂さんの本をいくつか読んだ。ものすごく感動したよ。

 

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歴史もとりあえず簡単に勉強した程度。学校で北海道の歴史をしっかり学ぶことはほとんどなかったから、私が持っていた知識は全部自分で本を読んだものでしかなかったけど、それでも、その経験が北米のオジブエの里で会話のやくにたつなんて、知識はどこでどう役にたつかわからないな、って思ったよ。なにせ、私に会う人たち、みんながアイヌのことを知ってるっていうんだから。

 

日本に住んでる人たちよりも、アメリカ先住民の人たちのほうがよっぽどアイヌの人たちのことを知っているなー、と思って、ほんとになんか、情けなくなったのを覚えてる。

 

で、その年、とても問題になったのは、鈴木宗男国会議員この発言アイヌは「日本人」に同化されていなくなったというもの。

 

「日本は一国家一言語一民族といっていいと思う」、「北海道にはアイヌ民族というのがおりまして、(一国家一言語一民族というと)嫌がる人もおりますけれど、今はまったく同化されている」

 

オジブエのひとたちも、はああぁ?  とあきれ顔。

うんざりした顔で、アイヌの人たちは全然違う事いうよ、ああ、stupid な政治家たち、そんなやつらはここ合衆国にもいる、みたいな感じの言葉が返ってきた。

 

で、まあ、いろいろと仕事が忙しく、アイヌに関する本を読むこともなくなってしばらくたった。それでも、たまにインターネットでアイヌについての歴史を検索すると、この近年、奇妙なものがでてくるようになった。最初はね、意味が解らなかった。なんだろこれ、みたいな。

 

アカデミックな体裁をとりながら、アイヌはいないんだ、という論がびっちりと展開されていて、ええええ、なにこれ、って感じで、これがヘイトとデマであることを認識するまで、少し時間がかかるくらいだった。それぐらいアイヌヘイトはひどかった。

 

とくにひどいのは、利権のためにアイヌを演じているんだというデマ。こんな人が北海道議会議員をしていたんだというから驚きですね。沖縄デマと全くパターンが同じなので、というか、ヘイトと民族差別には、まったく同じパターンがあります。もう普遍的にパターン化されているので、デマだとすぐにわかるくらいです。

 

自民党 元・北海道議会議員 小野寺まさるさんのツイートの一例

 

 

 

 

これ読んで、みんなは信じたくなっちゃった ?

もちろん、デマであり、ヘイトだよ。ちゃんとした知識があったり、アイヌの友達がいたら、すぐわかるけどね、デマだって。

 

この小野寺まさる、もちろん大問題になり落選しましたが、デマとヘイトをツイッターで投稿して炎上商法、日本中の右派の支持はかなりあり、現在では、あの DHC シアターの「虎ノ門ニュース」に出演して人気のようです。デマとヘイトで炎上商法なのでしょう。

 

 

そう、あの DHC です。

sophist.hatenablog.com

こうしたアイヌヘイトと歴史修正論の高まりに対して、歴史学者のみんなが黙っているわけではありません。

 

色丹島へのアイヌ強制移住はなかった、政府はアイヌを救ったという論調に対して、たんぎく・いつじ先生の簡単な連続ツイートをよんでみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北千島アイヌ強制移住させられた色丹島では死亡者が相次いだ。1888年には17人が死んでいる。わずか80人程度の集団なのにこの死者は多すぎる。

 

そもそもカムチャツカ南部~北千島~南千島~北海道東端はひと続きの世界だった。それだけ広い婚姻圏があったからこそ成り立っていた。そこから北千島の100人を切り取って色丹島に閉じ込めたわけである。結婚相手がいなくなる。

 

 わずか100人弱の北千島アイヌを婚姻圏から切り離し、色丹島に閉じ込め、1日11時間の長時間重労働を課しておいて、食事はわずか2合の支給米。その結果4割が死亡。これが色丹島強制移住の悲劇である。

 

 100人程度で完全に隔離されて存続している民族なんているわけがない。周囲との婚姻は不可欠。それからみても「純血」云々がいかに馬鹿な考えか。

 

「北千島アイヌは自由意思で色丹島に移住した」なんていう札幌の人間の歴史修正主義的デマは本当に死者への冒涜ですよ。

 

 

 

 

sophist.hatenablog.com

 

 

 

 

 

アイヌ民族強制移住はなかった」などの歴史修正主義的な主張が札幌で生まれつつある、というのは偶然ではない。札幌はアイヌ民族の土地だった北海道を日本国家に編入していく「開拓使」の拠点として建設された都市。

 

また別の歴史修正主義の動きが旭川と帯広にある。旭川は軍都でありアイヌ民族強制移住の現場、帯広もやはり強制移住の現場だった土地。これらは偶然ではない。

 

アイヌ民族強制移住」を過去ではなく現在の問題にしているのは、過去をなかったことにしたい歴史修正主義者たちです。彼らは「強制移住させた人々の自民族中心主義的感覚」をそのまま現在も持ち続けている「現在まで続く悪夢」そのものです。

 

そういう歴史修正主義的な空気が一部にあることを知っている研究者たちが「アイヌ遺骨問題」についても沈黙している。そのほうが楽だから。実際には歴史修正主義者たちは少数です。でも研究者たちは怖がっている。彼らを勇気づけてやらなくてはなりません。一般の人々の考えを伝えてあげてください。

 

北海道ってのはそういう土地でもあるのです。

 

  <たんぎく・いつじ> 北大アイヌ・先住民研究センター准教授。1970年生まれ、千葉大大学院修了、博士(文学)。専門はアイヌ語アイヌ文学・ニブフ語ニブフ文学・口承文芸論。共著に『水・雪・氷のフォークロア』(勉誠出版)『アイヌ民族否定論に抗する』(河出書房新社)ほか。アイヌ語アニメ「オルシペ スウォプ1・2」(アイヌ文化振興・研究推進機構)監修。岡和田晃編『北の想像力』(寿郎社)に「SFあるいは幻想文学としてのアイヌ口承文芸」を執筆。

 

これも読んでみよう。

dounan.exblog.jp

 

アメリカの歴史で Trail of Tears というアメリカ先住民の強制移住 Relocation を学びますが、まったく同じような政策を日本政府がやってきたという事、この不都合な真実を認めたくなくて、アイヌはいない、今いるアイヌは偽物だ、アイヌ強制移住強制移住ではなかった、と言っているのです。

 

ほとんど本土ではアイヌの歴史を勉強したりしません。で、もし、私が学生時代にアイヌの本を読んでいなくて、なんの知識もなく、ただネットだけをみていたら、入ってくる情報はほとんどがアイヌ利権、アイヌは偽物、強制移住じゃない、みたいな情報になってしまい、簡単に信じてしまいます。でも真実は、

 

この色丹島への強制移住だけでも、1884年強制移住1888年までのわずか4年間で人口の4割が死亡。労働時間は午前5時から午後5時まで。その間休憩は1時間。1日11時間労働に対し支給米はわずか2合。政府によって土地と生活のすべてを奪われた人々が、こんなわずかの「施し」で生きていけるわけもありません。

 

これが、私たちの真実です。

 

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http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/19-1/RitsIILCS_19.1pp.43-55Fumoto.pdf