アイヌ (2) - 歴史修正主義との闘い - 「色丹島へのアイヌの強制移住は強制ではなかった」というデマ
私が北アメリカの先住民オジブエの人たちにお世話になっていた時、みんながアイヌのことを知っていた。私が日本から来たという事を知ると、みんなやってきて、いろいろと話しかけてくれるのだけど、なかでもアイヌの話が一番多かった。アイヌの事知ってるよ、アイヌと俺たちはつながってるよ、みたいな。
で、私の持っているアイヌの知識はさほど多くはなかったけどね。
小学校の時に読んだアイヌの伝説コロボックルをモデルにした童話からはじまって、
アイヌで初の国会議員になった萱野茂さんの本をいくつか読んだ。ものすごく感動したよ。
歴史もとりあえず簡単に勉強した程度。学校で北海道の歴史をしっかり学ぶことはほとんどなかったから、私が持っていた知識は全部自分で本を読んだものでしかなかったけど、それでも、その経験が北米のオジブエの里で会話のやくにたつなんて、知識はどこでどう役にたつかわからないな、って思ったよ。なにせ、私に会う人たち、みんながアイヌのことを知ってるっていうんだから。
日本に住んでる人たちよりも、アメリカ先住民の人たちのほうがよっぽどアイヌの人たちのことを知っているなー、と思って、ほんとになんか、情けなくなったのを覚えてる。
で、その年、とても問題になったのは、鈴木宗男国会議員のこの発言。アイヌは「日本人」に同化されていなくなったというもの。
「日本は一国家一言語一民族といっていいと思う」、「北海道にはアイヌ民族というのがおりまして、(一国家一言語一民族というと)嫌がる人もおりますけれど、今はまったく同化されている」
オジブエのひとたちも、はああぁ? とあきれ顔。
うんざりした顔で、アイヌの人たちは全然違う事いうよ、ああ、stupid な政治家たち、そんなやつらはここ合衆国にもいる、みたいな感じの言葉が返ってきた。
で、まあ、いろいろと仕事が忙しく、アイヌに関する本を読むこともなくなってしばらくたった。それでも、たまにインターネットでアイヌについての歴史を検索すると、この近年、奇妙なものがでてくるようになった。最初はね、意味が解らなかった。なんだろこれ、みたいな。
アカデミックな体裁をとりながら、アイヌはいないんだ、という論がびっちりと展開されていて、ええええ、なにこれ、って感じで、これがヘイトとデマであることを認識するまで、少し時間がかかるくらいだった。それぐらいアイヌヘイトはひどかった。
とくにひどいのは、利権のためにアイヌを演じているんだというデマ。こんな人が北海道議会議員をしていたんだというから驚きですね。沖縄デマと全くパターンが同じなので、というか、ヘイトと民族差別には、まったく同じパターンがあります。もう普遍的にパターン化されているので、デマだとすぐにわかるくらいです。
自民党 元・北海道議会議員 小野寺まさるさんのツイートの一例
(3)何故アイヌ政策が問題になっているのですが、同和問題の様に歴史をねつ造しアイヌが虐げられた話にしてしまったので、アイヌが生活困窮した責任を果す話にされアイヌの方々への生活支援が始まりました。アイヌの方々には特例の助成制度が多々あり笑いが止まらないはずです。 https://t.co/eiBGtYCVnB
— 小野寺まさる (@onoderamasaru) 2018年2月13日
(4)また、アイヌ文化の保護伝承をするとい法律までつくられ巨額の税金が措置されるようになり、更にアイヌは潤いました。アイヌの織物を税金を貰い作っては更に売却していた事実も多々あり、やっていないアイヌ講座に巨額の税金が…とうとう、どんどんアイヌの一部は暴走しました。 https://t.co/eiBGtYCVnB
— 小野寺まさる (@onoderamasaru) 2018年2月13日
(5)で、これにアイヌ以外の方々が目をつけない訳はありません。昔からアイヌは在日や部落の方々と密なカンケイだった為に、その方々が金のなる木に群がりました。門題なのはアイヌの定義がなく、アイヌ協会が認めれば誰でもアイヌ民族の一員になれるということ。この政策が全国展開されること。 https://t.co/eiBGtYCVnB
— 小野寺まさる (@onoderamasaru) 2018年2月13日
(6)更に琉球独立と同じようにアイヌ民族独立を訴え、民族の断絶を目論む反日左翼のツールになっている点も深刻な問題です。実際にアイヌ民族は自治権の要求を国連の場でしていますから、問題はより深刻なのです。
— 小野寺まさる (@onoderamasaru) 2018年2月13日
ここまでで質問ありますか? https://t.co/eiBGtYCVnB
これ読んで、みんなは信じたくなっちゃった ?
もちろん、デマであり、ヘイトだよ。ちゃんとした知識があったり、アイヌの友達がいたら、すぐわかるけどね、デマだって。
この小野寺まさる、もちろん大問題になり落選しましたが、デマとヘイトをツイッターで投稿して炎上商法、日本中の右派の支持はかなりあり、現在では、あの DHC シアターの「虎ノ門ニュース」に出演して人気のようです。デマとヘイトで炎上商法なのでしょう。
最新版の「虎ノ門ニュース 楽屋入り」に出演させて頂いたが、2人に比べ僕の表情が違い過ぎる。やっぱし、真面目な顔写真も必要かな…( •̆ ·̭ •̆ )https://t.co/17jSb7aDUW pic.twitter.com/57A2hX5oef
— 小野寺まさる (@onoderamasaru) 2018年3月3日
そう、あの DHC です。
こうしたアイヌヘイトと歴史修正論の高まりに対して、歴史学者のみんなが黙っているわけではありません。
色丹島へのアイヌの強制移住はなかった、政府はアイヌを救ったという論調に対して、たんぎく・いつじ先生の簡単な連続ツイートをよんでみましょう。
最近は歴史学の研究者がぼやぼやしてるから「色丹島への強制移住は強制ではない。アイヌが希望したものだ」などという悪質なデマを札幌の人間が垂れ流すようになっている。歴史研究者はしっかりしとけよ。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
世界的には「大規模な強制移住以外は忘れようぜ」ではなく、「小さな強制移住も同じ構造の先住民族抑圧」という視点から、小さな事実の確実な掘り起しが行われるようになっている。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
そしてそれらをまとめて「先住民族の歴史」として位置付けなおしていく。そういう新しい動きが生まれている。新時代の歴史学のひとつ。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
なんだかんだいって「マジョリティが自分たちの内部の人間に対して行う強制住」と「マジョリティがマイノリティを対象にする強制移住」には違う部分が必ずあるんだよね。それは偶然ではない。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
アイヌ民族の色丹島強制移住について「怪しい」のはそういう部分じゃないんですよ。それどころじゃない。強制移住後に尋常じゃない死者が出た。人数というより、経緯が怪しいんですよ。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
「北千島アイヌはウイルスに免疫がなかった説」を唱える人もいるだろうけど、その説に根拠はありません。そもそも北千島アイヌがウイルスから孤立していたなんてのはファンタジーです。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
色丹島への北千島アイヌ強制移住を「強制ではなかった」なんて寝言を言ってる研究者は一人もいない。それなのに「強制ではなかった」などというデマが流される。歴史に関するデマに対処する、というのも歴史学の役割の1つです。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
北千島アイヌについてはザヨンツ・マウゴジャータ『千島アイヌの軌跡』(草風館2009)が基本書のひとつ。まとまっていて読みやすいです。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
アイヌ民族に関する歴修正主義的なデマがまさに札幌から発信されている、ということを軽視してはいけません。北米においてヨーロッパ系移民が先住民族の存在を否定する、などの事例と平行的な現象です。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
札幌は200万都市です。レイシストが5%いれば10万人です。それだけで全北海道のアイヌ民族の人口を超えます。「アイヌ民族の人口より『アイヌ民族は存在しない』と嘘をつく人間のほうが人口が多い」ことになるのです。これがマイノリティの置かれた立場なのです。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
「今朝来土人の意向大に移住の点に向ふを以、斯好機を不失本船に乗せ、近島に移すに決せり」「県令着日より船に不還、懇々接待遂に全島移住の運となる。開拓使已来再応の説諭も頑として不服、今日此挙ある時到れるものなりと雖、県令懇諭の誠切なるに感ずる所ありと云べし」https://t.co/doT92l9ydx
— Mark Winchester (@archerknewsmit) 2018年3月2日
1884年千島列島巡視に随行した参事院議官安場保和の日記より。『明治初年北海紀聞』所収。
— Mark Winchester (@archerknewsmit) 2018年3月2日
1875年の政府の証書と1884年に実際に起きたことを困難させるな。根室県は千島列島巡視の際にむりやり移住を強行した。おまえよく植民者植民者と叫ぶけど、実際に何が起きたかを無視して植民政策のリベラルな見せかけを肯定するね。https://t.co/doT92l9ydx
— Mark Winchester (@archerknewsmit) 2018年3月2日
札幌の人間が「北千島アイヌの色丹島への強制移住はなかった」という歴史修正デマを垂れ流している。「政府が強制移住を決めたのは実行の3年前だから強制移住ではない」「移住先は2つから選べたんだから強制移住ではない」などの滅茶苦茶な論法だけど、結論だけを聞けば騙される人もいるだろう。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
こういった歴史修正主義的なデマだけじゃなく、もっと悪質なヘイトスピーチが放置されているのが札幌市なんですよ。だからこそ札幌市に人種差別撤廃条例が必要なんです。大都市には平気で人種差別を始める連中がいる。小都市とは違う。だからこそルール作りが重要。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
北千島アイヌの色丹島強制移住は「1884年の強制移住後1888年までのわずか4年間で人口の4割が死亡」という結果になっている。労働時間は午前5時から午後5時まで、その間休憩は1時間。1日11時間労働に対し支給米はわずか2合。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
北千島アイヌが強制移住させられた色丹島では死亡者が相次いだ。1888年には17人が死んでいる。わずか80人程度の集団なのにこの死者は多すぎる。
そもそもカムチャツカ南部~北千島~南千島~北海道東端はひと続きの世界だった。それだけ広い婚姻圏があったからこそ成り立っていた。そこから北千島の100人を切り取って色丹島に閉じ込めたわけである。結婚相手がいなくなる。
わずか100人弱の北千島アイヌを婚姻圏から切り離し、色丹島に閉じ込め、1日11時間の長時間重労働を課しておいて、食事はわずか2合の支給米。その結果4割が死亡。これが色丹島強制移住の悲劇である。
100人程度で完全に隔離されて存続している民族なんているわけがない。周囲との婚姻は不可欠。それからみても「純血」云々がいかに馬鹿な考えか。
歴史修正主義は「嘘」です。ヘイトスピーチは「差別」です。両者は一見別物だけれど、その底にあるものは同じです。動機は同じです。歴史修正主義には研究者が率先して立ち向かう必要があります。ヘイトスピーチに対してはルール化、つまり条例制定が重要です。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
歴史修正主義は詭弁です。詭弁と戦うときには、相手の土俵に乗ってはいけません。土俵に乗らずに戦うことが重要です。映画「Denial」は戦い方を示してくれたものでもあります。法廷は詭弁をある程度抑止できます。法廷という土俵でなら何とかなった、ということです。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
歴史修正主義との戦いでは、まずなによりも淡々と事実を示すことが重要です。ただし広く示すことです。見えないところでやっても意味がありません。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
SNSにおける歴史修正主義投稿は試験段階のようなものです。次は刊行物やマスコミに「ひとつの説」として姿を現します。SNSの歴史修正主義アカウントは「たんなる1人の変わり者」ではありません。複数の人間が関わる、いわば一つのプロジェクトです。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
SNSの1つのアカウントなのに、明らかに複数の文体が混在していたりする。素人一人では到底そろえられないような情報をならべてくる。歴史修正主義投稿は、明瞭な目的を持った複数人によるプロジェクトなのですよ。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
「北千島アイヌの色丹島強制移住などなかった」というデマを流す札幌のアカウントは「1898年に占守島に帰還させる事業を開始」といういい加減な話も垂れ流す。1898年に12人を試験的に送り込んだが、全員の帰還ではなく少数の「出稼ぎ」を許可しただけ。しかも1909年で終了。「帰還事業」ではない。
— 丹菊逸治 (@itangiku) 2018年3月2日
「アイヌ民族の強制移住はなかった」などの歴史修正主義的な主張が札幌で生まれつつある、というのは偶然ではない。札幌はアイヌ民族の土地だった北海道を日本国家に編入していく「開拓使」の拠点として建設された都市。
また別の歴史修正主義の動きが旭川と帯広にある。旭川は軍都でありアイヌ民族強制移住の現場、帯広もやはり強制移住の現場だった土地。これらは偶然ではない。
「アイヌ民族の強制移住」を過去ではなく現在の問題にしているのは、過去をなかったことにしたい歴史修正主義者たちです。彼らは「強制移住させた人々の自民族中心主義的感覚」をそのまま現在も持ち続けている「現在まで続く悪夢」そのものです。
そういう歴史修正主義的な空気が一部にあることを知っている研究者たちが「アイヌ遺骨問題」についても沈黙している。そのほうが楽だから。実際には歴史修正主義者たちは少数です。でも研究者たちは怖がっている。彼らを勇気づけてやらなくてはなりません。一般の人々の考えを伝えてあげてください。
北海道ってのはそういう土地でもあるのです。
<たんぎく・いつじ> 北大アイヌ・先住民研究センター准教授。1970年生まれ、千葉大大学院修了、博士(文学)。専門はアイヌ語アイヌ文学・ニブフ語ニブフ文学・口承文芸論。共著に『水・雪・氷のフォークロア』(勉誠出版)『アイヌ民族否定論に抗する』(河出書房新社)ほか。アイヌ語アニメ「オルシペ スウォプ1・2」(アイヌ文化振興・研究推進機構)監修。岡和田晃編『北の想像力』(寿郎社)に「SFあるいは幻想文学としてのアイヌ口承文芸」を執筆。
これも読んでみよう。
アメリカの歴史で Trail of Tears というアメリカ先住民の強制移住 Relocation を学びますが、まったく同じような政策を日本政府がやってきたという事、この不都合な真実を認めたくなくて、アイヌはいない、今いるアイヌは偽物だ、アイヌの強制移住は強制移住ではなかった、と言っているのです。
ほとんど本土ではアイヌの歴史を勉強したりしません。で、もし、私が学生時代にアイヌの本を読んでいなくて、なんの知識もなく、ただネットだけをみていたら、入ってくる情報はほとんどがアイヌ利権、アイヌは偽物、強制移住じゃない、みたいな情報になってしまい、簡単に信じてしまいます。でも真実は、
この色丹島への強制移住だけでも、1884年の強制移住後1888年までのわずか4年間で人口の4割が死亡。労働時間は午前5時から午後5時まで。その間休憩は1時間。1日11時間労働に対し支給米はわずか2合。政府によって土地と生活のすべてを奪われた人々が、こんなわずかの「施し」で生きていけるわけもありません。
これが、私たちの真実です。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/19-1/RitsIILCS_19.1pp.43-55Fumoto.pdf