Sophist Almanac

世界について知りたいとき

1749年7月7日 稲生もののけ物語 ~ 竹篦も鳴弦もききめなく

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「芸州武太夫物語絵巻」(立花家史料館蔵)

 

稲生もののけ物語、『稲生物怪録』(いのうぶっかいろく)は、江戸中期、寛延2年(1749年)の備後三次(現在の広島県三次市)のひとりの少年が経験した一か月にわたる物の怪との出会いをまとめた記録。稲生武太夫(幼名・平太郎)が体験したという、妖怪にまつわる怪異をとりまとめた記録。毎日毎日、飽きることなくいろんな「もののけ」がやってきます。

 

1749年7月7日 竹篦も鳴弦もききめなく

 

『三次実録物語』試訳

さて、七日、夜、暮れすぎ、庄太夫、たいとう和尚の「しゅっぺい」というものを借りだして持ってきた。

 

「まことにこれをうりあげ、もとを打てば、いかなる「へんげ」のものも、よりつくことはできませんよ。退きさることは妙 (霊妙) あらたかなものでございます。だからかりてきましたよ。」という。

 

また甚左衛門、八幡奉納の名弓を借りだして持ってくる。

 

「この弓を蟇目の矢のように弦をきつく張って弦音をだしてごらんなさい、七里四方の魔物はおることはかないませんよ」という。

 

相撲取りの権八がその場にいて聞いていたのだが、

 

「そうであれば、お家のうちに「へんげ」のものがいることができないというのなら、必ず最初に南側の塀の方角に帰るに違いないでしょうから、私が槍を持ち、もし奇妙な形見でもありましたら、すぐにでも突きしとめてやりますよ」と、権八が素槍をもって外にでた。

 

さて、庄太郎がこの「しゅっぺい」をふりあげ、畳を打つ。その音にたがわぬ音が空中にひびく。また打つとまた空中に音がひびく。三つうち、三つともに同様に音がする。また甚左衛門も弓を貼り、弦音をさせてみると、また、その音にたがわぬ音がする。

 

すると、塀の上に黒いものが権八の目にみえた。これこそ、と思って、槍でつきだしたのだが、槍をはずされ、つきはなされ、槍を取りあげられたうえ、その槍は障子をやぶって、甚左衛門という人の持つ弓をこすり、台所の唐紙障子に突き立った。

 

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「芸州武太夫物語絵巻」(立花家史料館蔵)

 

それから権八がもどってきて、「黒いものが見えましたので、突きしとめようとしましたが、握っている槍は抜け、槍まで取られてしまいました」と、息を切って帰ってきた。

 

みんながみんな、

 

あやうきところでした。どうしても無理なようです、

 

と言って、四つ時にみんな帰っていきました。

 

しっぺい

しっぺ返し、という言葉はよくきくけど、しっぺ返しの語源となっている「しっぺい」ってどんなものなんだろう。平太郎も「しゅっぺいとか申すもの」と書いているから、あまり普段は見たりしないレアものだったのかもしれない。

今回『目でみることば2』に収録したことばの中で、もっともその写真を撮るのに苦労したのは「しっぺ返し」でした。…(中略)…

「そもそも、竹篦は師家(しけ)が雲水(修行者)を教化するために使うもので、坐禅会では使われません。曹洞宗の寺院では法戦式で使われるかもしれません」

もっとも苦労したのは「しっぺ返し」 - 目でみることばblog

 

これの持ち主だという「たいとう和尚」とは、どこのお寺の和尚さんなのだろうか。やっぱ、西江寺 !? 

 

蟇目 (ひきめ) とは !?

蟇目祈祷(ひきめきとう)の「蟇目」とはヒビキメ(響目)の約で、鏑矢あるいはその先端につけられた桐や朴(ほお)で作られた大型の鏑をいいます。或いは鏑にある孔が蟇蛙の目に似ているので「蟇目」という説もあります。その矢を射ることにより発する音で妖魔を降伏すると信じられていました。「鳴弦(めいげん)」は弓の弦を引き鳴らして妖気をはらうまじないです。

蟇目祈祷 | 御形神社 - 宍粟市