Cast the First Stone ~ 最初に石を投げよ
Lucas Cranach the Younger (1515-1586): "Christ and the Woman Taken in Adultery" (1532) at Hermitage Museum
英語の辞書にものっている "Cast the first stone" 「最初の石を投げよ」とは、どういう意味なんだろう。まず原典を読んでみよう。
John 8:1-19 - Cast the First Stone
テクスト解釈をめぐって
ジレンマ (dilemma 両刀論法) とは
ジレンマ【広辞苑】
二つの仮言的判断を大前提とし、これを小前提で選言的に承認もしくは拒否して結論を導く三段論法。「もし秘密をもらせば非難をうける。また秘密を守っても非難をうける」「秘密をもらすべきか、守るべきか、他に方法がない」「故に、どちらにしても非難をうける」の類。両刀論法。相反する二つの事の板ばさみになって、どちらとも決めかねる状態。抜きさしならない羽目。進退両難。
実はこのトラップは、女性を陥れるためではなく、ジーザスを陥れるためのジレンマでした。女性はジーザスを「テスト」するためだけに引きずって連れてこられた、とちゃんと書かれてますね。ほんとうに卑劣・・・。
この dead end question な dilemma をたった一言で「テーブル返し」して (turn the tables 形勢を逆転させ) 、女性の命を救ったジーザス。めっちゃ頭いいし、愛があってかっこいい。
どんなふうにこの難局をたった一言で覆したのか見ていこう。
Gustave Doré's "Jesus and the Woman Taken in Adultery" (1866)
原理主義 (Fundamentalism) について
イエスを罠にはめようとしたファリサイ派や律法学者は、「戒律 (Torah) には、モーゼはこんな女 (姦淫の罪を犯した女) には石を投げよ、と私たちに命じている」と語っているけど、これ本当だろうか。
長い年月の中で形成された Torah には膨大な情報が書いてある。で Torah における stoning (投石処刑) の規定に関して、様々なことが書いてあり、一番厳しい規定ですら、投石して処刑するのは「男女二人とも」とかいてある。また、stoning に値すると書かれている罪には「姦淫」だけではない。安息日に薪を集めただけでも、石打ちして殺せという箇所まである。また「姦淫」の定義も、さまざまです。
つまり、「姦淫」した「女 (だけ) に石を投げる」とは書いてないよね。なのになぜ女だけが引きずられ連れてこられて処刑を問われるのはなぜなんだろう。どこで恣意的に (都合よく) テクスト解釈がゆがめられていくんだろう。
それについて考えていきます。
現代もある「姦淫罪」の処刑
江戸時代、不義密通により公衆にさらされる男女『日本の礼儀と習慣のスケッチ』より、1867年出版
CHAPTER VIII.CRIMES AND PUNISHMENTS."Sketches of Japanese manners and customs" Jacob Mortimer Wier Silver, 1867
Stoning (投石処刑) について
2005年の4月、北東部のバダフシャン州で、29歳の既婚女性が地方裁判所の判決により、姦通の罪で、投石によって公開死刑されました。処刑された女性の名はアミナ。
アミナの夫は、5年間イランで暮らし、その間、アフガニスタン国内に残っていた妻のアミナには仕送りも何もしませんでした。戻ってきた夫に対して、アミナは、離婚を求めました。ところが、その夫は、アミナが他の男と関係をもったと言いがかりをつけ、姦通を犯したとして法廷に訴えました。そして、法廷は、夫の言い分を認め、アミナが姦通したとして、投石による公開処刑の判決をくだしたのです。夫と地方の役人は、実家にいたアミナを家からひきづりだし、処刑しました。彼女と姦通したとされる男の方は、100回むち打たれて釈放されました。
ところで、投石による死刑とはどういうものでしょうか。
処刑される人間は、首だけだして、土に埋められます。そして、その首に、死ぬまで石を投げつけ続けるのです。石を投げるのは、まず、「妻に裏切られたと考えている夫」です。それから夫の家族や友人や近所の人たち。公開による投石刑で処刑の手を下すのは、関係当時者や住民たちです。みんなでかわるがわる石を投げつけて殺すわけです。しかし、健康な人間はなかなか死にません。顔や頭が見る影もなくぐちゃぐちゃになっても死なず、最後は銃で殺したこともあったそうです。投石の刑は、苦しみを長引かせるという意味で、死刑の中でも最も残酷な刑の一つといえるでしょう。
投石による公開処刑は、タリバンの時代にしばしば行われていましたが、残念ながら、カルザイ政権になってからも行われています。圧倒的に男性が権力をもつ社会では、男性の言い分だけが通り、女性は命を守ることもできません。これは、男性と女性の関係のみならず、権力をもつ者と持たない者がいた場合、権力を持つ者が持たない者の生存権を握っているという残酷な事実をよく示していると思います。
女性が自立して生きていくことが本当に困難なアフガニスタンで、夫に5年も留守にされ、仕送りも何もなかったなら、残された妻は生活のためにどれほど苦労したでしょうか。それでも、妻のほうから離婚する権利がないのです。たとえ、5年も10年も夫が留守にして何の連絡もなく、生きているのか死んでいるのかもわからない状態で、もし妻が、他の男と生活を共にするようなことをして、夫が戻ってきて訴えた場合、姦通として処刑されてしまいます。生活に窮したといった妻の側の言い分は一切認められません。
また、他の男と関係をもったという事実が実際になかったとしても、夫が、事実があったに違いない、と疑っただけで、事実があったことにされてしまいます。この社会で効力があるのは男性の言い分だけで、女性の言い分は認められないのです。
権力があるとはこういうことです。人が人を支配するとはこういうことです。
AFPBB News 2016年1月5日 18:47 発信地:アデン/イエメン
【1月5日 AFP】国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系の武装組織で、イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の戦闘員らが4日、不倫や売春を行ったとして女性を石打ちし殺害した。複数の目撃者らが明らかにした。
目撃者の一人によると、AQAPの支配地域となっているイエメン南東部ハドラマウト(Hadramawt)州の州都ムカラ(Mukalla)にある軍事施設で「中庭の中央に掘った穴に女性を入れ、住民数十人の目の前で石を投げ、殺害した」という。
現場にいた地元ジャーナリストは、珍しい石打ち刑が行われたことを認めた。また処刑の様子が写真撮影されないよう、銃を持った男たちが見張っていたと述べた。
ハドラマウトでアルカイダ系イスラム過激派組織「アンサール・アルシャリーア(Ansar al-Sharia)」による裁判所が昨年12月に出したとされる判決によると、この既婚女性は「判事の前で不倫を告白」した他、強制下ではない売春や、大麻の吸引も認めたため「不倫」の罪で石打ちによる死刑を、大麻吸引で80回のむち打ち刑を言い渡されたという。
イスラム法(シャリーア)では婚外関係をもった場合、男性も女性も既婚者の場合は石打ちによる死刑が、未婚者の場合はむち打ち刑が下される可能性がある。(c)AFP
Honor Killing (名誉殺人) について
【11月1日 AFP】保守的な慣習が根強いパキスタンで、頻発する「名誉殺人」の流れを断ち切ろうと新たな法律が施行されて1年になるが、いまだに大勢の若い女性が、家族に恥をもたらしたという理由で親族に殺害されている。
ソーシャルメディア上の有名人だったカンディール・バローチ(Qandeel Baloch、本名ファウジア・アジーム、Fauzia Azeem)さんが7月に実兄によって殺害された衝撃的な事件は、いわゆる名誉殺人のまん延を浮き彫りにし、殺害者を野放しにしている法の抜け穴をふさぐべきだという要求に拍車をかけた。
パキスタン・ラホールで、記者会見に臨むカンディール・バローチさん(2016年6月28日撮影)。(c)AFP
ようやく3か月後に待望の法律が通過し、女性の権利活動家らは歓迎はしたものの慎重に見守った。そして弁護士や活動家らは、その後1年以上を経ても、今も警戒すべきペースで名誉殺人が起きていると言う。
独立系人権団体「パキスタン人権委員会(Human Rights Commission of Pakistan)」の記録によると、2016年10月から今年6月までの間に少なくとも280件の名誉殺人が発生した。だが、この数字は過小評価で不完全だとされている。
新法では名誉殺人に対し、終身刑を科している。だが、ある殺害を名誉殺人と定義するかどうかは裁判官の判断による。つまり実行犯は、別の動機を主張しさえすれば罪を免れる可能性があると、首都イスラマバードにあるカーイデ・アザーム大学(Quaid-i-Azam University)ジェンダー学部・学部長のファルザナ・バリ(Farzana Bari)博士は指摘する。
パキスタンでこれを可能としているのは、キサース・ディーヤ法(同害報復・賠償法、Qisas and Diyat Ordinance)と呼ばれる法律だ。同法の下では加害者が犠牲者の親族に許しを求めることが認められており、特に名誉殺人では便利な逃げ道とされている。
また裁判制度が入り組んでいるため、警察がしばしば当事者らに賠償金支払による和解を奨励し、複雑な司法制度を一切回避するよう仕向けることもある。
ソーシャルメディアで有名人だったカンディール・バローチさんを「名誉殺人」で殺害し、連行される実の兄(右)といとこ(2017年10月17日撮影)。(c)AFP/SS MIRZA
■名誉殺人の矛先は圧倒的に女性へ
「名誉」殺人のルーツは部族社会の規範にあり、今も南アジア一帯で広くみられ、特に女性の行動を支配し続けている。
女性たちは縁談を断った、「間違った」男性と結婚した、友人の駆け落ちを手助けしたなどあらゆる理由で自分の家族に「恥」をもたらしたとして、射殺され、刺殺され、石で打たれ、火あぶりされ、首を絞められ、殺されている。男性も犠牲者となることはあるが、暴力の矛先は圧倒的に女性へ向く。
名誉殺人の捜査を指揮するあるベテラン警官は匿名でAFPの取材に応じ、大抵のパキスタン人はレイプを犯した男は許すが、女性の場合は不倫を疑われただけでも家族に恥をかかせたとして、許されることがないと語った。むしろ名誉のために自分の妻や娘、姉妹を殺害する男性には、同情や称賛が集まるとさえ言う。
弁護士で、女性の権利擁護団体「アウラ基金(Aurat Foundation)」で活動するベナジル・ジャトーイー(Benazir Jatoi)氏は、パキスタン社会は古い「名誉」の意味を越えることができていないと指摘する。「私たちが広く名誉殺人を非難するようにならない限り、誰も理解する者のいない時代遅れで独断的で家父長的な『名誉』の規範を女性たちが破ったと言って、彼女たちを殺して自慢する殺人者はいなくなりません」(c)AFP/Masroor GILANI
絵画で見る聖書の場面
グエルチーノ
Christ with the Woman Taken in Adultery, by Guercino, 1621 (Dulwich Picture Gallery).
Christ and the Woman Taken in Adultery, 1565 by Pieter Bruegel, Oil on panel, 24cm x 34cm.
"Christus und die Ehebrecherin", Lucas Cranach d. Ä., um 1512, Holz, Öltempera; Exponat im Dommuseum Fulda
ロレンツィオ・ロッツォ
Lorenzo Lotto - Christ and the Woman Taken in Adultery (1527)
服もちゃんと羽織れないまま、女性だけ引っ張ってきた・・・。
やっぱこれ、すごいな
Cranach the Younger, Lucas - Christ and the adulteress, circa 1532
石を投げろと騒ぎ、左手に複数の石を用意し、右手で石を握る男 (左側) を、クラナッハは、どのように描いているか、その貌を、よくよく、みてみましょう。ある意味、これも、ものすごーく怖い絵、ですね。
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