Sophist Almanac

世界について知りたいとき

Hate and Lone Wolves ~ 憎悪はどのように醸造されるのか ~

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CNN "What's Fueling the Hate?" 2009 

後半部分のスウェインさんとの部分の動画を見てみましょう。

 

さて、上記のインタビューは、オバマ政権が誕生して半年後の2009年6月13日頃のものですが、

 

まずここにでてくるスウェイン教授 (当時) は、2002年の時点で  The New White nationalism in America: Its Challenge to Integration という著書のなかで新しい白人至上主義の台頭を予測したとして知られている若手の研究者として登場します。

 

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そしてその6年後の2009年、オバマ政権の誕生後、この CNN に登場し、反動のように高まる白人至上主義や白人民族主義とヘイトの高まり、などを洞察的に語っていて、大変興味深い内容となっています。

 

多くの人たちが、オバマ候補の Yes we can "Change" の呼び声に呼応し、アメリカ初のアフリカ系アメリカ人大統領の登場で、アメリカの人種主義の時代の流れは大きくシフトし、レイシズムを乗りこえる Post Racial とも呼ばれる新たな時代に入ったと感涙しました。

 

あの歴史的な 2008年11月4日の大統領選挙において、オバマの勝利宣言スピーチに先立つ共和党のマケイン候補の Concession Speech も、とても感動的な素晴らしいものでしたが、その故ジョン・マケイン上院議員も、そのスピーチの中でこう語っています。

 

A century ago, President Theodore Roosevelt's invitation of Booker T. Washington to visit — to dine at the White House — was taken as an outrage in many quarters. America today is a world away from the cruel and prideful bigotry of that time. There is no better evidence of this than the election of an African-American to the presidency of the United States. Let there be no reason now for any American to fail to cherish their citizenship in this, the greatest nation on Earth.

 

およそ100年前、セオドア・ルーズベルト大統領がブッカーT.ワシントンをホワイトハウスでの食事に招待したことは、多くの界隈で憤激の行為と見なされました。今日のアメリカは、当時の残酷で傲慢な根強い偏見から、まるごとかけ離れた世界となりましたが、今日、アフリカ系アメリカ人が米国大統領に選出されたことほど、これを示す良い証拠はありません。

Presidential Election 2008: オバマ vs マケイン ~ 共和党の良心、故マケイン上院議員の心を打つスピーチ - Sophist Almanac

 

a step away from ~   

~からあと一歩というところ

 

よく使われる表現ですが、ここでマケインさんが使っている表現は、

 

a world away from ~   

~から世界1つかかけ離れた = 天地ほど違う世界だ

 

という表現を使っています。

 

たしかに、あの瞬間、マケインさんのこの表現には、ほんとうにある種の確固たる実感がありました。まさに私たちは、マケインさんのコンセッション・スピーチのこの瞬間に、初のアフリカ系アメリカ人アメリカ大統領の登場を目撃したのです。

 

ところが、ほんとうに私たちは、レイシズムに打ち勝つ新たな時代に入ったのでしょうか。

 

その答えは、やがて、ヘイトと「フェイクニュース」と排外主義、終わらぬ警察暴力と白人至上主義、そして8年後のトランプ大統領の登場というかたちで訪れることになります。

 

2020年、第一回の大統領討論会で、保守系フォックス・ニュースの司会者を何度もさえぎり、白人至上主義より問題を起こしているのは「左翼だー」と主張するトランプ大統領

2020 Presidential Election Calendar ~ 世界最高水準のディベート !? - Sophist Almanac

 

そういう意味でも、オバマ大統領就任後すぐの 2009年の時点での、この CNN のヘイトに関するインタビューは、その後を予見するかのような insightful なものだったと思います。

 

スウェイン教授のその後について

 

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さらに、ここで残念ながら補足しなければならないのは、この番組内でコメンテーターとして登場しているスウェイン教授についてです。

 

当時、バンダービルト大学の有望な政治科学の研究者として、わかりやすく、今の時代を生きる人々の心の「隙間」にインターネットでリーチし、ヘイトとヘイト・クライムの温床をうみだす構図を語っていたこのコメンテーターは、なんとその後、よくわからない方向にむかって舵を切ります。

 

ヘイトと白人至上主義を研究していたはずの研究者が、自分が予見したヘイターそのものになってしまうという、この奇妙な彼女のトリップには、私のような傍観者にとっては驚くばかりですが、まあ、なんとも、人間のこころというのは難しいものだと思うのです。

 

2015年、バンダービルト大学の学生は、スウェイン教授のヘイトと排外主義と差別に対し、ついに声をあげ、change.org でスウェイン教授の職を一旦停止するよう請願の声をあげます。

 

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Over the past few years, Professor Carol Swain has become synonymous with bigotry, intolerance, and unprofessionalism.

過去数年の間でキャロル・スウェイン教授は、偏見と不寛容と反プロフェッショナリズムの代名詞となりました。

Petition · Vanderbilt University: Suspend Professor Carol Swain · Change.org

 

中絶に反対し、人種問題だけではなく、移民、LGBTQIA+ やイスラーム教徒など非キリスト教徒であるマイノリティの学生への教室内外での差別発言、またさらにそうした学生に不当な評価を出している恐れがあるとして、学生たちが声をあげ、立ち上がったのです。

 

www.change.org

 

それに対し、名門バンダービルト大学の対応は、

 

ニコラス・S・ゼポス学長は、スウェインが挑発的な議論をする権利をもつと擁護しつつも、彼はスウェインの物議をかもすコメントと大学との関連を遠ざけるための措置を講じた。大学のスポークスウーマンで広報担当副学長のベス・フォーチュン氏はメールで、「ヴァンダービルト大学からのスウェイン教授の引退を祈っています」と述べた。

Controversial professor Carol Swain to retire from Vanderbilt

 

なぜヘイトを研究していたはずの研究者が、ヘイターになってしまったのでしょうか。

 

スウェインの変遷をむしろわかりやすく解説しているのは、これも、びっくりなのだけど、今のところ (極)右派系タブロイド「ワシントン・イグザミナー」かな、と思います。用心深く読む必要がありますが、「キャロル・スウェインの長く奇妙なアカデミック・トリップ」は、スウェインの奇妙なトリップをいくらか説明してくれています。

 

Political scientist and law professor Carol Swain retired from academia just when some of her research had become remarkably relevant. She doesn't see it quite that way, though. Swain prophesied the rise of the alt-right 15 years ago, but she won't call Donald Trump's election victory a vindication of her prediction that a new white nationalism would infiltrate mainstream politics. It might be because the 63-year-old Southern black woman and distinguished, though increasingly controversial, scholar supports the populist president's most contentious policies.

 

政治科学法学教授キャロルスウェインは、彼女の研究の一部が目に見えて今日的なものになっていたちょうどその頃、学術世界から引退することになった。しかしながら、彼女自身はそれをまったくそのようには見ていない。スウェインは15年前にオルタナ右翼の台頭を予言していたが、彼女はドナルド・トランプの選挙勝利を、新しい白人至上主義が主流の政治に浸透するという彼女の予言の立証とは見ていないのです。それは、この63歳の南部の黒人女性で、著名な、しかしながらますます物議を醸している学者が、このポピュリスト大統領の最も論争の的となっている政策を支持しているためかもしれません。

 

Swain doesn't deny that the Trumpian trolletariat of the alt-right poses the same danger to racial integration that she identified in the late nineties' breed of articulate white nationalist. And she agrees with the most enlightened progressives that there's nothing new in a repackaged nativism. But rather than call it a systemic white supremacy set free by Trump's ascent—Hillary Clinton's definition of the alt-right—Swain blames an isolating worldview, endemic to elite college campuses like Vanderbilt's, that promotes racially determined interests at the expense of a common cause.

 

スウェインは、オルタナ右翼のトランプ派のネトウヨ労働者階級が、人種的統合に対して、彼女が90年代後半の明確な白人ナショナリストの血統として特定したのと同じ危険をもたらすことを否定してはいません。そして彼女は、再パッケージ化された移民排斥には何も新しいことはないという急進派リベラル進歩主義者にも同意している。しかし、彼女は、ヒラリー・クリントンオルタナ右翼の定義のように、それをトランプの台頭によって解き放たれた組織的な白人至上主義と呼ぶのではなく、ヴァンダービルトのようなエリート大学のキャンパスに特有の孤立した世界観のせいだと非難し、共有された大義を犠牲にしてまで人種的な利益を追求するものだと言います。

 

Hers is a complicated cosmology, not exactly suited to the press release genre—nor to the modern university campus. In the late nineties, she left a tenured faculty seat at Princeton to complete a master's in law at Yale before taking joint appointments in law and political science at Vanderbilt. In the meantime, she also quit the Democratic party and became reborn in Christ. "I jokingly say they hired one person, a very different one showed up," she told me. "I showed up a born-again Christian, and I would say my Christian conversion was very dramatic. It has shaped everything I've done since then, and it affects how I see the world."

 

彼女は複雑な宇宙論であり、プレスリリースのジャンルにも現代の大学のキャンパスにも正確には適していません。90年代後半、彼女はプリンストン大学テニュア教員席を離れ、イェール大学で法学修士号を取得した後、ヴァンダービルト大学で法学と政治学の共同任命を受けました。その間に、彼女は民主党も辞め、「キリストの内」に生まれ変わった。「私は冗談めかしていうのですが、彼らが私を雇ったんだと言います、非常に異なる人材です」と彼女は私に言いました。「私は生まれ変わったクリスチャンになりました。そして私の回心は非常に劇的だったと思います。それはそれ以来私の生活すべてを形作りました、そしてそれは私が世界を見る方法に影響を与えました。」

Carol Swain's Long, Strange Academic Trip (May 10, 2017) 

 

ウェインは1954年、12人の子供のうちの1人として生まれた。父親は3年生で中退、母親も高校で中退し、家水道設備もベッドもそろっていない家で、家庭内暴力にさらされて育った。スウェインは14歳くらいで学校をドロップアウト、それでもなんとか GED (高等学校卒業程度認定試験) に合格。祖母とトレーラーハウスに住んでいたことも。16歳で結婚し三人の子どもをもつが一人の娘は突発性突然死で死亡、離婚後、自殺も試みた。生活保護を受けながら二人の息子を育てる。そして養護施設の同僚の勧めで、高等教育にチャレンジ。地域の二年制のコミュニティーカレッジからスタートし、そこからイエール大学ロースクールプリンストン、バンダービルト、と、信じられないほど輝かしいアカデミズムの階段を駆けあがる。名門バンダービルト大学で法学と政治科学の准教授をつとめる。

 

ちょうど、この CNN の番組に登場した後、2009年には、自分の聖書観と民主党の政治的立場に大きな矛盾があるとして、民主党から共和党支持へ鞍替え。宗教的には、10代は熱心なエホバの塔の信者であったが、後に病院で宗教的な「目覚め」を経験しペンテコスト派に改宗し洗礼を受ける。2012年のバラクオバマ再選を「非常に恐ろしい状況」と呼んで批判。2017年、彼女の数々の問題発言や差別発言、SNS への晒し行為などへの批判が高まり、バンダービルト大学を辞任。現在は地元のトランプ選挙陣営に貢献している。南部バプテスト連盟に属する。

 

彼女の Black Lives Matter への陰謀論に近い批判や、民主党への陰謀論デマドキュメンタリーへの出演、そして LGBT への激しい憎悪や、非キリスト教徒への不寛容は、政治科学や法学という学問に裏打ちされたものではなく、むしろ、キリスト教原理主義の影響下にあるものであり、学生たちは、そのことを "unprofessionalism" という言葉で表したのだと思います。

 

なんとも残念な話です。

 

そんなこんなでバンダービルト大学を辞職後のスウェインさんは、陰謀論系のドキュメンタリーに登場したり、視聴に立候補したり、地元のトランプ選対選挙を務めたり、福音派保守系アフリカ系アメリカ人のリーダー的存在としてと活動されているようです。

 

彼女の最新の記事は、「白人至上主義は、トランプを攻撃するための左翼の最新の比喩だ」という、自身の17年前の著作をひっくり返すような奇論は、米中国系メディア「大紀元」に寄稿され、さらにキリスト教福音派の地盤からさまざまな経路で拡散されています。

 

陰謀論と偽情報で有名なキャンディス・オーウェンス (Candace Owens) と同様、アフリカ系アメリカ人の極右クラスタ言論人は、こうしてSNSによって注目を浴び、力を与えられ消費され、活発化しており、9割が圧倒的に民主党支持だったアフリカ系アメリカ人の共同体は、今後は大きく削られるのではないかと予想されます。

 

こうしたアメリカ極右の陰謀論やデマはときどき日本の、おもに宗教右派系 (法輪功幸福の科学統一教会など各種あり) の系列で拡散され、日本で一切ファクトチェックなく、もっともらしく拡散されることがありますので、気をつけてくださいね。

 

"Devil's Brew Condition"

Swain: Yes. Yes. That white people are losing ground. There are many people that believe that America was founded by Anglos, [and] for Anglos, and when our Founding Fathers said that we would be a nation of immigrants,  that they meant white immigrants. And so they very much are concerned about affirmative action. They’re concerned about globalization, lost of jobs, minority crime. And there’s a sense of grievance, a sense that politicians are not paying attention. And there’s a void out there, and there are some leaders (of extremists) that have stepped into that. And because of the Internet, they can reach people and they can feed on the fears of people that may be unstable. 

 

スウェイン:はい。はい。白人のひとたちは足場を失っています。アメリカはアングロ (英国系) によって、そしてアングロのために設立されたと信じている人がたくさんいます。そして私たちの建国の父たちが、私たちは「移民の国」になるといったとき、それは白人の移民を意味したのです。そして、彼らはアファーマティブアクションについて非常に懸念しています。彼らはグローバル化、失業、少数派の犯罪を懸念しています。そして、政治家が自分たちに注意を払ってくれていないという不満の感覚があります。そして、そこに心の真空地帯があり、(過激派の)指導者たちはそこに入り込んでいくのです。そしてインターネットのおかげで、彼らはそうした人々にリーチすることができ、不安を感じている人々の恐怖心を食い物にするのです。

 

2009年のCNNインタビューのなかで当時のスウェイン教授はこのように語っています。このようなことは、今のヘイトの時代を考えるものであれば誰しもわかっていることですが、やはり、ずっしりと重いですね。

 

昨年末には、バングラデシュの青年が日本留学時代にヒンズー教徒からイスラム教徒に改宗し、ネットで原理主義に傾倒。ISISと連携したリクルートをしていたが、ついには日本人の妻と子供を連れて母国にもどり、日本人などを標的にした大規模なテロ事件 (ダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件) をおこし、ついに逮捕されました。

日本から連れていった妻と子供二人は爆撃で既に亡くなっています。痛ましく、痛ましく、そのことを考えると言葉にもなりません。

 

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成績優秀、転機は日本 イラクで拘束のオザキ容疑者:朝日新聞デジタル

 

世界でも最も貧しい国のひとつといわれている国から日本の大学に留学し、成績優秀でアカデミズムの階段を駆けのぼり、30代の異例の若さでその大学の准教授となる。

大学で知り合った彼女と結婚し、子どももうまれ、何もかもが順風満帆。バングラデシュの親や親族からも、自慢の息子だったはずの青年。

 

学生時代には「NATO北大西洋条約機構)やUN(国際連合)に関する仕事をするのが夢」と語っていた青年は、一体どんな心の void を抱えていたのか。彼らは私たちの心のうちにある不安や憎悪にどのように触れ、私たちの心に入り込もうとするのか。

 

憎悪や疑念や恐怖はネットによってどのように醸造されるのか。

 

ネットを嫌でも使わなければならない現在、たとえ自らすすんでクリックしなくとも、陰謀論歴史修正主義や偽情報は頻繁に私たちの目の前にポップアップしてきます。

 

自身のこころの隙間にネットにあふれる憎悪と不寛容に、私たちも「食い物」にされないよう、しっかりと考えておきたい問題です。

 

 

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