夏休みや春休みに何をどう研究したらいいのだろうと悩む前に - 四つのススメ「聞いてみる」「やってみる」「行ってみる」「読んでみる」
社会調査のやり方入門
大学のホリデーシーズンは長いよね。でもそれはごろごろしたり、バイトしたりするためにあるんじゃない。
ぼーっとしてると、人生で宝物のような大学のホリデーはあっという間に終わっちゃう。だから、まず、目標とプランをたててみる。
毎回のホリデーシーズンで、やってみたい勉強のテーマを決めるんだ。例えば、一回生の夏休みはこれやる、一回生の春休みはこれ勉強してみる、ってかんじにね。
大学ホリデーシーズンのマスト
1. 研究のテーマとプランニング
2. なにかアドベンチャーに必ずでかける
3. 必ず英語は勉強する。
で、今日は一番の、ホリデーシーズンの研究テーマとプランニングについて、簡単に説明しようと思う。まあ、研究内容は何でもいいけどね。一生の宝物になる知識や経験というものは、ホリデーに自分で学んだことの方が多いのよ、実は。
私も休暇にはテーマを決めていろいろ勉強した。ニューヨークのハーレムに長期滞在して勉強しながらハーレムのお年寄りたちのお話をきいたり、ミシガン北部の町で、ネイティブアメリカンのオジブエの人々のお祭りや儀式に連れていってもらったり、地元の長老の人に古い古い歴史や日本の因習を聞いて回ったり、うちのじいちゃんばあちゃんや親戚のじいちゃんばあちゃんまでかりだしてファミリーヒストリーをきいてまわったり。
でも、せっかくいろんなことを経験しても、形にまとめおかないと意味がない。
今日ご紹介したいのは、この本。
最強、
かもしれない社会学入門という本ね。
ちょっと目にイタい感じの本ですが、中身はとても参考になるよ。
これ読んだらわかるとおもうけど、
私たちのまわりのものが難でも「研究」の対象になりうるの。
前田拓也・秋谷直矩・朴沙羅・木下衆編『最強の社会調査入門 ── これから質的調査をはじめる人のために』ナカニシヤ出版
第I部 : 聞いてみる
(朴沙羅)
何か知りたいことがある。誰かに話を聞きに行く。なんて安直な。そうかも知れません。社会調査と聞いて、まずインタビューを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、いっけん簡単そうな「聞いてみる」方法を選ぶや、様々な問題が湧いてきます。誰に話を聞けばいいのか、どうやって話をしてくれる人と出会うことができるのか、どれくらいの時間や回数を重ねればいいのか、どういう質問をすればいいのか、話を聞いたあとにどうすればいいのか。 知らない人に出会うこと、知っている人の知らなかった経験を聞くことは、それだけでわくわくする体験です。それだけで何かが書けそうな気がしてしまいます。
しかし、知りたいことを教えてくれる人と出会うのは、そう簡単ではありません。聞いた話を「社会学的に」書くことも、そう簡単ではありません。話をする、聞くという単純なやりとりに至るまでとそのあとには、たくさんの疑問が控えています。
この章では、そういった疑問に答えてきた人たちの調査が書かれています。既にある人間関係の中で話を聞きに行った人もいれば、話を聞きに行くために知らない所に踏み込んで行った人もいます。ひとりひとりの調査が、聞いてみることの面白さと、聞いてみるための工夫を伝えています。
敷居は低く、奥は深い、「聞いてみる」調査の世界へようこそ。
1 朴 沙羅
「昔の(盛ってる)話を聞きに行く ── よく知っている人の体験談を調査するときは」
「〈事実〉をつくる ── 吹田事件と言説の政治」
- 身近な人を扱いたかったら
- 途中で「問い」を見失ったら
2 矢吹 康夫
「仲間内の『あるある』を聞きにいく ── 個人的な体験から社会調査を始める方法」
「強いられた「よい適応」 : アルビノ当事者の問題経験」
- 情報メディアを活用したかったら
- 身近な人を扱いたかったら
- 「自分の経験」を活かしたくなったら
3 デブナール・ミロシュ
「私のインタビュー戦略 ── 現在の生活を理解するインタビュー調査」
「在日外国人の多様化と日本社会への参加:ー在日チェコ人とスロバキア人の事例から見えるもう一つの可能性」
- 対象の「部分」より「全体像」を知りたくなったら
- 「とりあえずなにかをはじめてみたい」なら
4 鶴田 幸恵
「キーパーソンを見つける ── どうやって雪だるまを転がすか」
「いかにして『性同一性障害としての生い立ち』を持つことになるのか ── 実際のカウンセリングの録音・録画における「自分史をやる」」
- 調査先で叱られないか心配だったら
- 調査の相手とどう付き合えばいいかわからなくなったら
第II部 : やってみる
(前田拓也)
なぜだかずっと気になっていることがある。気になっている人たちがいる。それらを調べるための方法の1つに、実際に「やってみる」というアイデアがある。関心をもったその対象となる人びとの暮らす社会で、かれらがやっていることを、自分も同じように「やってみる」。そうして、どんな手応えがあるか、自分も体験してみる。そんなことを通じて、できることなら自分もその社会の一部になってみる。すると、かれらと同じ視点で社会を眺めることができるようになってくる。少なくとも、そのように努めてみる。そんな方法がよさそうだ。
なんて安直なんだろう。そう思うかもしれない。
たしかに、「やってみること」それ自体はなにもすごいことではないし、えらいことでもない。問題は、「やってみた」はいいけれど、それをどうすれば「研究」にすることができるのか、「文字」にすることができるのか、というところにある。
第II部では、「現場で実際にやってみる」ことを通して得た自分の経験を「社会学」にしてゆくためにはどうすればよいのか、そのためのアイデアを、経験者の視点を通してお見せします。
5 前田拓也
「『わたし』を書く ── 障害者の介助を『やってみる』」
「介助者のリアリティへ ── 障害者の自己決定/介入する他者」
- 仕事/働きかたを扱いたかったら
- 「自分の経験」を活かしたくなったら
- 「とりあえずなにかをはじめてみたい」なら
6 松田さおり
「『ホステス』をやってみた ── コウモリ的フィールドワーカーのススメ」
「サービス業に従事する女性の〈仕事仲間〉 ── ホステスクラブZの事例を中心として」
- 仕事/働きかたを扱いたかったら
- 「自分の経験」を活かしたくなったら
- 調査の相手とどう付き合えばいいかわからなくなったら
- 約束事の多い場所で調査をすることになったら
7 有本尚央
「〈失敗〉にまなぶ、〈失敗〉をまなぶ ── 調査前日、眠れない夜のために」
「岸和田だんじり祭の組織論 ── 祭礼組織の構造と担い手のキャリアパス」
- 「自分の経験」を活かしたくなったら
- すでにある「問い」をもっと洗練したかったら
- 調査先で叱られないか心配だったら
- 調査の相手とどう付き合えばいいかわからなくなったら
8 打越正行
「暴走族のパシリになる ── 『分厚い記述』から『隙のある調査者による記述』へ」
「沖縄の暴走族の文化継承過程と〈地元〉 : パシリとしての参与観察から」
- 仕事/働きかたを扱いたかったら
- 「自分の経験」を活かしたくなったら
- 調査先で叱られないか心配だったら
- 調査の相手とどう付き合えばいいかわからなくなったら
第III部 : 行ってみる
(木下衆)
自分が興味をひかれた場所に「行ってみる」というのは、シンプルで、意外に上手くいく調査法です。これまでにも出入りしていた場所に、あらためて調査モードで行ってみたり、あるいは、自分の知り合いや先生に仲介してもらって、今までに行ったことのない場所に足を踏み入れてみたり。一人ではなく、グループでいってみるという手もあります。皆さんが真剣に取り組んでいるということが伝われば、意外に多くの場所が、皆さんの調査を受け入れてくれます。
しかし、皆さんは「行ってみた」先のメンバーではありません。つまり、そこにもともといた人(所属している人)たちからしたら、「赤の他人」なわけです。だからこそ、独特の気まずさを感じることもあるでしょう。「あの人は誰だろう?」という視線を向けられたり、その場で役割がないのでどう振る舞えば良いかが分からずに困ったり、なんていうことは、ありがちなことです。
だけど、臆することはありません。皆さんも相手のことを知りたがっている。そして皆さんを受け入れた先の人たちも、自分たちのことを知ってもらいたいと思っている。そのお互いの気持ちを、具体的な調査の中で噛み合わせることができれば、面白くて実りある調査になるはずです。これから、そのコツを紹介しましょう。
9 木下衆
「フィールドノートをとる ── 記録すること、省略すること」
「家族会における「認知症」の概念分析 : 介護家族による「認知症」の構築とトラブル修復」
- 途中で「問い」を見失ったら
- 約束事の多い場所で調査をすることになったら
10 團康晃
「学校の中の調査者 ── 問い合わせから学校の中で過ごすまで」
「学校の中のケータイ小説® : ケータイ小説をめぐる活動と成員カテゴリー化装置」
- 調査の相手とどう付き合えばいいかわからなくなったら
- 約束事の多い場所で調査をすることになったら
11 東園子
「好きなもの研究の方法 ── あるいは問いの立て方、磨き方」
「女同士の意味 ── 「宝塚」から読み取られる女性のホモソーシャリティ」
身近な人を扱いたかったら
- 「自分の好きなもの(趣味)を扱いたかったら
- すでにある「問い」をもっと洗練したかったら
12 平井秀幸
「刑務所で『ブルー』になる ── 『不自由』なフィールドワークは『不可能』ではない」
『刑務所処遇の社会学 ── 認知行動療法・新自由主義的規律・統治性』
- 途中で「問い」を見失ったら
- 約束事の多い場所で調査をすることになったら
13 秋谷直矩
「仕事場のやり取りを見る ── 『いつもこんなかんじでやっている』と『いつもと違う』」
「観察のための撮影」
- 仕事/働きかたを扱いたかったら
第IV部 : 読んでみる
(秋谷直矩)
暮らしのなかにはたくさんのテキストがあって、それを読んだり、ときには書いたりしてわたしたちは日々生活しています。書く場合は、伝えたいことを読み手に理解できるようにするにはどうすればよいか悩むでしょうし、読む場合は、そこになにが書かれているかをがんばって理解しようとするでしょう。
この過程のただなかにテキストがあるのだと考えれば、そのテキストはどのように理解できるのか、あるいは、どのように理解されているのかということを調べれば、わたしたちの暮らす社会について何らかの知識を得ることができそうです。
では、テキストを読む/書くということをどのように調べればよいでしょうか?ふと立ち止まって見回せば、わたしたちの社会はテキストであふれかえっていることにすぐに気づくと思います。となれば、なにを、どこで見ればよいのでしょうか?
本章では、こうした疑問にヒントをくれる、「テキストのフィールドワーク」を独自のやりかたで進めてきた人たちが登場します。
14 牧野智和
「『ほとんど全部』を読む ── メディア資料を『ちゃんと』選び、分析する」
「就職用自己分析マニュアル」が求める自己とその機能 ── 「自己のテクノロジー」という観点から
- 情報メディアを活用したかったら
- 対象の「部分」より「全体像」を知りたくなったら
- 「とりあえずなにかをはじめてみたい」なら
15 小宮友根
「判決文を『読む』 ── 『素人でいる』ことから始める社会調査」
「被害者の意思を認定する」
- 情報メディアを活用したかったら
16 酒井信一郎
「読む経験を『読む』 ── 社会学者の自明性を疑う調査の方法」
「メディア・テクストのネットワークにおける成員カテゴリー化の実践®」
- 情報メディアを活用したかったら
- 自分の好きなもの(趣味)を扱いたかったら
で、ちゃんとリサーチしたことはノートかカードにまとめておこう、というか、いまならパソコンにデータとしてまとめておきましょう。